推奨度が示すもの

日本皮膚科学会が公開している「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年版)」は、治療法ごとに「推奨度」をAからDまでの5段階で示しています。推奨度は、根拠となった研究の種類と質を土台に、委員会が判断して決めたものです。ガイドラインは個々の症例に応じて柔軟に使うものとされ、医師の治療方針を限定するものではないとされています。この記事は、特定の治療を勧めるものではありません。

このガイドラインは何か

日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年版)」は、2010年に公表された「男性型脱毛症診療ガイドライン」を改訂した第2版で、日本皮膚科学会雑誌(127巻13号、2017年)に掲載されています。背景と目的の項は、まず、科学的根拠に基づかない民間療法が横行し、無効な治療法を漫然と続ける患者も少なくなかったことを挙げています。2010年版については、科学的根拠に基づいた情報を選び出して医師と患者双方に標準的な治療法を提示するという目的を果たしたとしています。そのうえで、新しい治療薬や治療手段の登場、女性の脱毛症に対する概念の変化、未承認の毛髪再生医療が社会的な話題になっていることなどから、改訂に至ったと説明しています。

作成したのは、毛髪疾患の診療に詳しい毛髪科学研究会(SHSR)の会員を中心とする委員会です。2016年12月までに検索できた文献を集め、ランダム化比較試験のシステマティック・レビューと個々のランダム化比較試験の論文を優先して採用したと書かれています。それが得られない場合は、非ランダム化比較試験や症例集積研究も参考にしています。基礎的研究や動物実験の文献は採用していません。費用は日本皮膚科学会ガイドライン策定委員会の研究費で賄われ、委員が特定の薬剤や治療法の開発・発表に関与した場合は、その治療の推奨度の判定には直接関与しないこととされています。

ガイドラインは今後も定期的に改訂していく予定とされていますが、学会の一般公開ガイドラインの一覧では、2026年10月の時点で2017年版が男性型脱毛症に関する最新の版として掲載されています。

推奨度A〜Dの意味

推奨度は、日本皮膚科学会編「皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版」で採用された分類基準に準拠しており、次の5段階です。

A
行うよう強く勧める
有効性を示すレベルI、または良質なレベルIIのエビデンスが少なくとも1つあること。
B
行うよう勧める
有効性を示す質の劣るレベルII、良質なレベルIII、あるいは非常に良質なレベルIVのエビデンスが1つ以上あること。
C1
行ってもよい
質の劣るIII〜IV、良質な複数のV、あるいは委員会が認めるVIのエビデンスがあること。
C2
行わないほうがよい
有効のエビデンスがない、あるいは無効であるエビデンスがあること。
D
行うべきではない
無効あるいは有害であることを示す良質なエビデンスがあること。

ここで出てくる「エビデンスのレベル」は、根拠となった研究の種類による分類です。Iがシステマティック・レビューやメタアナリシス、IIが1つ以上のランダム化比較試験、IIIが非ランダム化比較試験、IVが分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究)、Vが記述研究(症例報告や症例集積研究)、VIが専門委員会や専門家個人の意見です。推奨度AにはレベルIやIIの根拠が求められるように、番号の小さいレベルの研究ほど、推奨度を高くする根拠として重く扱われています。

ガイドラインには、本文中の推奨度が必ずしも上の判断基準に一致しないものがあるとも書かれています。この分野では国際的にもエビデンスが不足していること、日本の歴史的背景や特殊事情、診療ガイドラインの実用性も考慮して、委員会のコンセンサスに基づいて推奨度を決めた項目があるためです。推奨度は、根拠の強さを土台に、委員会が判断して決めたものです。

14のクリニカル・クエスチョン

ガイドラインは、「○○は有用か?」という14のクリニカル・クエスチョン(CQ)に、推奨度と推奨文、解説で答える形式です。ガイドラインの表1によると、推奨度は次のとおりです。男性型脱毛症と女性型脱毛症で異なるものは、その旨を示しています。

  • フィナステリドの内服:A(男性型)、D(女性型)
  • デュタステリドの内服:A(男性型)、D(女性型)
  • ミノキシジルの外用:A(推奨文では男性型は5%、女性型は1%の外用と記載)
  • 植毛術:自毛植毛術はB(男性型)、C1(女性型)。人工毛植毛術はD
  • LEDおよび低出力レーザー照射:B
  • アデノシンの外用:B(男性型)、C1(女性型)
  • カルプロニウム塩化物の外用、t-フラバノンの外用、サイトプリンおよびペンタデカンの外用、ケトコナゾールの外用、かつらの着用:いずれもC1
  • ビマトプロストおよびラタノプロストの外用、成長因子導入および細胞移植療法:いずれもC2
  • ミノキシジルの内服:D

同じ成分でも、外用と内服で推奨度が大きく異なるものがあります。ミノキシジルの内服(CQ14)について、ガイドラインは次の点を挙げています。

  • 臨床試験が実施されていないこと
  • ミノキシジルの内服薬は降圧剤として開発されたものの日本では認可されておらず、男性型脱毛症の治療薬として認可されている国もないこと
  • 内服用製剤の添付文書の市販後調査欄に、胸痛、動悸、うっ血性心不全、むくみなどの重大な心血管系障害が生じるとの記載があること

全身の多毛を起こす副作用を根拠に医師が安易に処方したり、一般の人が個人輸入で入手して服用したりすることがあり、医薬品医療機器等法の観点から問題視されているとも書かれています。そのうえで、利益と危険性が十分に検証されていないため、男性型・女性型ともに行わないよう強く勧められるとしています。

読むときに気をつけたいこと

ガイドラインの免責事項には、診療ガイドラインは個々の症例に応じて柔軟に使うものであって、医師の裁量権を規制し治療方針を限定するものではないと書かれています。推奨度が高い治療でも、持病や体質、併用薬などの事情で選べないことがあります。逆に推奨度がC2やDの治療を提案された場合は、ガイドラインが「行わないほうがよい」「行うべきではない」としている理由を踏まえ、それでも選ぶ理由を確かめる必要があります。提案された治療については、ガイドライン上の位置づけと、自分にその治療を選ぶ理由の両方を、医師に説明してもらってください。

また、このガイドラインは保険診療の手引き書ではないと明記されています。保険診療上認められていない治療法や治療薬であっても、日本や海外において医学的根拠がある場合には取り上げて推奨度を書き加えたとされ、保険適応外の使用についても記載があります。そのうえで、保険適応外治療や未承認薬の使用にあたっては、各医療機関の承認や、患者あるいは家族のインフォームド・コンセントが前提となるとしています。推奨度が答えているのは「有用か」という問いです。費用、国内の承認状況、自分の体の状態に合うかどうかは、別に確かめる必要があります。

2017年版であることを踏まえる

採用された文献は2016年12月までに検索できたものです。その後に承認や添付文書の改訂があった薬については、PMDAの医療用医薬品情報検索で最新の添付文書を確かめ、わからない点は医師や薬剤師に質問してください。

治療の説明を受けるときに聞きたいこと

次の5つは、ガイドラインの記載そのものではなく、ここまでの内容をもとにこのサイトが考えた質問です。

  • 提案された治療は、ガイドラインの14のCQのどれに当たり、推奨度はいくつか
  • 推奨度がC2やDの治療、またはCQにない治療を提案された場合、その根拠と、その治療を選ぶ理由
  • その薬は日本で承認されているか。承認されていない、または承認された範囲と異なる使い方なら、その説明と同意の手続き
  • 主な副作用と、体調が変わったときの連絡先
  • 男性型と女性型で推奨度が異なる治療について、自分の診断がどちらに当たるのか

次に読む

参考にした一次情報

内容を確認するときは、各機関が公開する最新版もあわせてご覧ください。