日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年版)」は、自毛植毛術の推奨度を、男性型脱毛症でB(行うよう勧める)、女性型脱毛症でC1(行ってもよい)としています。ただし、薬の内服や外用による効果が十分でない症例に対し、他に手段がない状況で、十分な経験と技術を有する医師が施術する場合に限るとしています。人工毛植毛術は、男性型・女性型ともD(行うべきではない)です。厚生労働省の「医療広告等ガイドライン」は、治療前後の写真について、治療内容、費用、主なリスクや副作用などの詳細な説明を付した場合は、誤認させるおそれがある写真にあたらないとしています。国民生活センターは、美容医療について、不安をあおられたり大幅な割引を提案されたりしても、その場で契約や施術をしないよう助言しています。
確かめる順番
自毛植毛術は、自分の毛髪を移植する手術です。推奨の条件、広告の見方、費用と契約は、診察の前に公的な資料で確かめられます。リスクは、診察での説明で確かめてください。
医療機関そのものの選び方は、記事「AGAクリニックを選ぶときの確認点 医療機関、治療、費用、契約の順に確かめる」にあります。
1 ガイドラインが示す推奨度と条件
日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年版)」(以下「診療ガイドライン」)は、「植毛術は有用か」という問いに、次の推奨度を付けています。
| 自毛植毛術(男性型脱毛症) | B(行うよう勧める) |
|---|---|
| 自毛植毛術(女性型脱毛症) | C1(行ってもよい) |
| 人工毛植毛術 | D(行うべきではない) |
推奨度の区分の意味は、記事「男性型・女性型脱毛症診療ガイドラインの「推奨度」の読み方」にあります。診療ガイドラインは、2016年12月までに検索できた文献などをもとにした2017年版です。
推奨に付いている条件
診療ガイドラインは、解説の結びで、自毛植毛術を勧める範囲を次のように限っています。
| 症例 | フィナステリドおよびデュタステリドの内服やミノキシジルの外用による効果が十分でない症例 |
|---|---|
| 状況 | 他に手段がない状況 |
| 施術する医師 | 十分な経験と技術を有する医師が施術する場合に限る |
この条件のもとで、男性型脱毛症には勧め、女性型脱毛症には行ってもよいこととする、というのが結論です。推奨度の記号だけを取り出すと、この条件が見えなくなります。薬の治療は、記事「フィナステリドとデュタステリドの違いを添付文書で比べる」で確かめられます。
根拠として挙げられているもの
診療ガイドラインの解説は、自毛植毛術の有用性について、男性型脱毛症や女性型脱毛症に対するシステマティック・レビューやランダム化比較試験は実施されていないと述べています。そのうえで、次の2点を挙げています。
- 2015年度に世界全体で397,048件(男性84.7%、女性15.3%)の自毛植毛術が実施されていること(引用元は国際的な学会の調査)
- Beehnerの著書が、複数の報告を検討し、82.5%以上という高い生着率が得られると記載していること
解説は、これらに加えて「国内外における自毛植毛術の膨大な診療実績」を考慮し、推奨するとしています。82.5%という数字は著書の記載として引かれたもので、解説は何を基準にした生着率かを説明していません。生着率の数字を広告や説明で見たときは、何を数えた割合なのかを尋ねてください。
人工毛植毛術がDとされている理由
解説は、人工毛植毛術について、過去に多くの有害事象の報告があるとしています。そのため米国の食品医薬品局(FDA)は、人工毛自体を有害器具として指定し、使用を事実上禁じているとしています。長期間にわたり利益が危険性を上回るとする根拠は乏しいとしています。
解説は、日本国内で人工毛植毛術を施行することに医療法上の問題はないとしつつ、有害事象の発生を看過できないため、安全性に関する高い水準の根拠が得られるまでは、原則として行うべきではないとしています。
2 診察で確かめること
診療ガイドラインの条件は、診察で医師が判断する内容にかかわります。患者の側では、次の点を質問として用意できます。以下は、診療ガイドラインを踏まえた、このサイトからの提案です。
| 薬の治療 | これまでに使った薬と経過を踏まえて、植毛を検討する理由は何か。薬の治療は植毛の後も続けるのか |
|---|---|
| ほかの選択肢 | 植毛以外に選べる治療は何か。それぞれの利点と限界はどう違うか |
| 施術する医師 | 診察する医師と、手術を担当する医師は誰か。この手術の経験はどのくらいか |
解説は、「十分な経験と技術」の具体的な基準を示していません。医師の免許の確かめ方は、記事「医師等資格確認検索と医療情報ネットの使い方 医師の免許と医療機関を確かめる」で説明しています。
誰が治療の方針を決めるのかも、確かめる点です。独立行政法人国民生活センターは、令和元年(2019年)11月21日の資料で、医師の資格を持たない者が病状等の診断、治療方針の決定等の医行為を行うことはできないとしています。同じ資料の薄毛治療の相談事例には、医師ではない担当者のカウンセリングで治療のコースが決まり、医師の診察では治療内容やリスクの説明がなかったという内容があります。診断し、方針を決めて説明するのが誰なのかを、契約の前に確認してください。
3 広告の写真と体験談の見方
厚生労働省の「医療広告等ガイドライン」(令和8年(2026年)3月30日最終改正。以下「広告のガイドライン」)は、医療機関の広告の基準として、次の2つを認めていません。
| 治療等の内容や効果に関する体験談 | 治療等の内容や効果に関して、患者自身の体験や家族等からの伝聞に基づく主観的な「体験談」を、医療機関への誘引を目的として紹介すること |
|---|---|
| 治療前後の写真 | 治療等の内容や効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前または後の写真等(いわゆるビフォーアフター写真) |
同省は、いずれも個々の患者の状態により結果や感想が異なるため、誤認を与えるおそれがあると説明しています。体験談は、記述の内容が広告できる範囲のものであっても認められないとしています。
写真については、条件が書かれています。術前または術後の写真に、通常必要とされる治療内容や費用等に関する事項と、治療等の主なリスク、副作用等に関する事項等の詳細な説明を付した場合は、これにあたらないとしています。ただし同省は、治療効果に関する事項は広告できる事項ではなく、限定解除の要件を満たさない場合は、術前術後の写真等は広告できないとしています。説明を載せる場所についても、リンクを張った先のページに載せたり、利点や長所の情報に比べて極端に小さな文字で載せたりしてはならないとしています。写真やイラストだけを示して説明が不十分なものは、同省が挙げる認められない例です。
撮影条件や被写体の状態を変えて撮った術前術後の写真で効果を強調することは、誇大広告として扱うとしています。効果があるかのように見せるために加工や修正をした写真は、虚偽広告として扱うとしています。
写真のある広告を見るときは、次の点を確かめてください。以下は、広告のガイドラインを踏まえた、このサイトからの提案です。
- 写真の近くに、治療の内容と費用が書かれていること
- 治療の期間と回数が書かれていること
- 主なリスクや副作用が、同じページに読める大きさで書かれていること
- 写真の撮影条件が、術前と術後でそろっていること
表現全般の見分け方は、記事「医療広告で注意したい表現の見分け方」にあります。
4 費用と契約
費用の載せ方
広告のガイドラインは、患者が自ら求めて見るウェブサイトで自由診療の情報を広く載せる場合の要件として、通常必要とされる治療内容、標準的な費用、治療期間及び回数を挙げています。あわせて、主なリスク、副作用等の情報も分かりやすく載せることを挙げています。標準的な費用が明確でないときは、通常必要とされる治療の最低金額から最高金額(発生頻度の高い追加費用を含む)までの範囲を示すなどして、可能な限り分かりやすく示すとしています。
見積りを受け取ったら、次の項目に分けて書き出してください。以下は、広告のガイドラインを踏まえた、このサイトからの提案です。
| 施術の数量と金額 | 移植する数(株など、見積りが使う単位)と、その単価または総額 |
|---|---|
| 施術以外の費用 | 診察、検査、麻酔、薬、術後の処置や再診にかかる費用が含まれているか |
| 追加・取消し・支払い | 追加の施術が必要になる条件と金額、手付金の扱い、取り消したときの費用、分割払いの手数料を含めた総額 |
価格表示の読み方は、記事「「月額○円から」「初回○円」の価格表示を読むときの確認点」と、基礎ガイド「費用を見るときのチェックポイント」にあります。
国民生活センターが紹介した植毛の相談事例
国民生活センターは、令和元年(2019年)11月21日の資料で、植毛手術の相談事例を1件紹介しています。30歳代の男性が、無料カウンセリングで、後頭部等から毛髪を移植する自家植毛を3,000株程度、320万円で提案されました。承諾して当日に血液検査等を受け、手付金として20万円を支払ったという内容です。
この相談者は、手術の前に調べて、皮膚が腫れたり副作用があったりすると知り、説明が不十分だったとして解約したいと相談しています。同センターは、これをリスクや副作用の説明が不十分な事例として挙げています。事例は、相談者の申し出に基づく内容です。同じ資料は、施術の前に、施術の内容や効果、費用、解約条件などと、想定されるリスクや副作用を丁寧に説明しなければならないとしています。
契約の前に
国民生活センターは、令和5年(2023年)8月30日の資料で、美容医療サービスについて次の助言をしています。
- 今すぐ必要だと不安をあおられたり、モニター契約等による大幅な割引を提案されたりしても、その場で契約や施術をしないこと
- 分割払いにすると、手数料を含めた総額が高額になる場合があるため、組んでまで必要な施術かを考えること
- 断るときは、「お金がない」ではなく「契約しない」とはっきり伝えること
同センターは、美容目的の施術は多くの場合、緊急性がないとしています。
特定商取引法の対象かどうか
令和5年の資料は、一部の美容医療サービスについて、期間が1か月を超え、金額が5万円を超える場合に特定商取引法が適用されると説明しています。その場合は、契約書面を受け取った日を含む8日間はクーリング・オフができるとしています。令和5年の資料には、一日で施術が完了する契約等は適用外とも書かれています。
植毛術が特定継続的役務提供(美容医療)にあたるかを直接扱った美容医療分野の資料は、見当たりません(2026年11月時点)。令和元年の資料は、特定継続的役務提供契約の要件に該当する美容医療として、次の5つについて、主務省令に規定する方法によるもので、期間が1か月を超え、金額が5万円を超えるものを挙げています。
- 脱毛
- にきび、しみ、そばかす、ほくろ、入れ墨その他の皮膚に付着しているものの除去または皮膚の活性化
- 皮膚のしわ・たるみの症状の軽減
- 脂肪の減少
- 歯牙の漂白
この注記の5つに、植毛は挙がっていません。消費者庁の「特定継続的役務提供(美容医療分野)Q&A」は、レーザー治療で発毛や育毛を促す場合について、発毛を促す治療は「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し」に該当しないとしています。育毛は、施術の一過程で該当するものがあっても、一過程にすぎず目的が異なる場合は該当しないとしています。同Q&Aは、個別事案に法令が適用されるかどうかを回答するものではないと注記しています。
エステティックの分野では、同庁の特定商取引法ガイドのQ&Aが、植毛と増毛は「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し」というエステティックの定義に該当しないと考えられるとしています。これは美容医療の分野についての回答ではありません。
契約がどの法律の対象になるかは、このサイトでは判断できません。契約書に書かれた解約の条件を、署名の前に読んでください。迷うときは、消費者ホットライン「188」に相談してください。相談先の一覧は、記事「治療や契約で困ったときに相談できる公的な窓口」にあります。
5 リスクについての質問
診療ガイドラインの解説は、自毛植毛術の起こりうる合併症やその頻度を挙げていません。この記事で参照した資料には、自毛植毛術の合併症を一覧にしたものは含まれていません。リスクは、診察での医師の説明で確かめてください。
国民生活センターは、令和5年の資料で、自由診療では医師が副作用や合併症、施術の費用と解約条件、効果には個人差があることなどを丁寧に説明することが求められているとしています。
次の質問は、診察で聞く内容の例です。以下は、これらの資料を踏まえた、このサイトからの提案です。
| 想定されるリスク | 起こりうる合併症や副作用は何か。起きたときの対応と費用はどうなるか |
|---|---|
| 回復と回数 | 日常生活に戻れる時期の目安はいつか。追加の施術が必要になるのはどんな場合か |
| 定着しなかった場合 | 移植した毛髪が定着しなかったとき、どう対応するか。費用はかかるか |
| 術後の診察 | 経過を診る通院の頻度と期間、費用はどうなるか。困ったときの連絡先はどこか |
| 施術する人 | 手術のどの工程を、誰が担当するのか |
答えは、書面で受け取るか、メモに残してください。
予約の前にそろえること
以下は、診療ガイドライン、広告のガイドライン、国民生活センターの資料を踏まえた、このサイトからの提案です。
- 診療ガイドラインの推奨に付いている条件(薬の効果、他に手段がないこと、医師の経験と技術)を読んだ
- 写真のある広告では、治療内容、費用、期間と回数、主なリスクや副作用の説明を探した
- 見積りの単位、総額、追加の費用、取消しの費用、分割払いの手数料を書き出した
- 解約や取消しの条件を、署名の前に契約書で読んだ
- 診断し方針を決める人が医師であること、リスク、定着しなかったときの対応を確かめた
- その日のうちに契約や施術をしない前提で、予約を入れた
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参考にした一次情報
内容を確認するときは、各機関が公開する最新版もあわせてご覧ください。
- 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年版)」PDF・日皮会誌127(13) 2763-2777, 2017。推奨度の分類、免責事項、CQ4(植毛術は有用か)
- 厚生労働省「医療広告等ガイドライン」PDF・令和8年3月30日最終改正。第3-1の1(6)(7)(禁止広告)、第3-3の2(限定解除の要件)
- 独立行政法人国民生活センター「包茎手術、薄毛治療など、男性の美容医療トラブルに注意!」令和元年11月21日公表。事例2・事例3、2(3)(4)、消費者へのアドバイス、脚注7
- 独立行政法人国民生活センター「増加する美容医療サービスのトラブル」令和5年8月30日公表。概要、消費者へのアドバイス、脚注6
- 消費者庁「特定継続的役務提供(美容医療分野)Q&A」PDF・問5-1。個別事案への法令適用の有無を回答するものではないとの注記つき
- 消費者庁 特定商取引法ガイド「特定継続的役務提供Q&A」Q18(植毛、増毛、育毛、脱毛はエステティックに含まれるか)